ブランドン山はケリー州のディングル半島にある標高952メートルの山です。アイルランド最高峰のキャラントゥール山を擁するマギリカディーズリークス山地以外の山としては最高峰になります。
山の名前は旅行者の守護聖人として名高い「聖ブレンダン」に由来します。
聖ブレンダンはコロンブスよりも前にアメリカに航海した最初のヨーロッパ人と言われています。
ブランドン山の北東には聖ブレンダンがアメリカへの航海へと出発した岬「ブランドン・ポイント」があります。
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・ティム・セヴェリンによる実験航海と航海のドキュメンタリー映画
・イリアン・パイプスがフィーチャーされた映画のサウンドトラック
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ブランドン山の登山ルートはいくつかあると思いますが、山の東側のクログヘイン(Cloghane)という村の近くの、ファハ(Faha)というところから登り始めるのが一般的なようです。
ファハの登山口には駐車場と、ケリー山岳救助隊(Kerry Mountain Rescue Team)が設置した注意書きがあります。
登山口に立てられている注意書き。
ブランドン山に向かって登頂開始です。
登り始めてしばらく歩いたところに、聖ブレンダンと聖パトリック、それとマリア像が立っている岩屋(grotto)があります。
これが聖ブレンダンの像。聖ブレンダンは「旅行者の聖人」なので、登山の安全を祈っておいてもいいかも。
こちらは聖パトリックの像。シャムロックを持っています。
この山は山全体が放牧地か?というほど羊がそこら中にいます。
もちろん飼われている羊です。
ブランドン山の羊
ファハから登るこのルートはアイルランドの山にしては珍しく、頂上まで「道らしい道」がちゃんと付いています。
岩に書かれた矢印など随所に道しるべもあるので、頂上に行くだけなら地図無しでも登れそうな感じです。
岩に書かれた矢印(道しるべ)
ブランドン山へと続く登山道
登山道から東側(トラリー方面)の眺め
ブランドン山と羊
山の中腹付近まで来ると、ロック・クルチェ(Lough Cruite)という湖が見えてきます。クルチェ(Cruite)とはアイルランド語で「ハープ」という意味です。
ハープはアイルランドの国の紋章にも使われているアイルランドを代表する楽器です。
Cruiteの発音はこちらのオンライン辞書を参考にカナ表記を付けました。
アイルランド語の発音は地域によっても異なるし、日本語の発音とも大分違うのでカナを振るのが難しいです。
興味ある方はご自身でも正しい発音を聞いてみてください。
大分の山の奥へと入ってきました。この辺りから雪の中を歩いていきます。
見えにくいかもしれませんが、手前の一番右側の岩に矢印が書いてあります。
このルートは頂上に至るまで、そこかしこに道しるべがあるので、普通に歩いている分にはまず道に迷う心配はありません。
ブランドン山の頂上は前に見える崖を登った上にあります。写真で見るとそそり立っているように見えますが、実際は"ジグザグ"に道が通っているので特に難しいこともなく崖の上に出ることができます。
崖の上に出て振り返るとこんな眺めが広がっています。画像中央の右寄りにハープ湖(Lough Cruite)が見えます。
崖の上に出たら、尾根に沿ってブランドン山の頂上を目指します。
この先は大きなアップダウンはありません。
尾根の上からはディングルの名所のひとつである「三姉妹(スリーシスターズ)」が見えます。
三姉妹(スリーシスターズ)とはディングル半島の北西の端にある、3つの山のことで西側からBinn Hanrai、Binn Meanach、Binn Diarmadaの順で連なっています。どれも150メートルほどの低い山なのですが、独特の山容はディングルを象徴する景色の一つとなっています。
スリーシスターズを平地で見るとこんな風に見えます。
スリーシスターズはアイルランド語で「An Triúr Deirfiúr」とも呼ばれています。
ここがブランドン山の山頂です。山頂には大きな十字架が立っています。
聖ブレンダンがアメリカへの航海に出発する前に、大西洋を見渡した地点とも言われているようです。
山頂からの眺めです。これは山の西側の方の眺めで、先ほども写っていた「三姉妹(スリーシスターズ)」が良く見えます。
山頂から南側、アイルランド最高峰のマギリカディーズリークス山地の眺めです。
頂上から南西には小さな島が2つ見えました。スケリッグ・マイケル島でしょうか?
山頂から元来た道を引き返してもいいのですが、今回は尾根伝いに南端まで歩くルートを通ってみました。
標高840メートルのブランドンピーク(Brandon Peak)まで痩せ尾根が続くのですが、特に危険なこともなく、普通に歩くことができます。
ここが標高840メートルのブランドンピークです。ブランドンピークにはケルンが置かれています。
ブランドン・ピークからの眺め。東側のブランドン湾(Brandon Bay)方面を望む。
ブランドン・ピークにから野焼きの光景を見ることができました。
アイルランドでは春の始まるころに野焼きをする農家さんが居ます。
焼くのは基本的にハリエニシダ(gorse=アイルランドではゴースと呼びます)です。ハリエニシダは名前の通りハリがあって、刺さると痛いので農家さんの中にはハリエニシダが嫌いで牧場での作業が本格化する春先にハリエニシダを燃やす習慣があります。
稀に山全体に燃え広がって大規模な山火事が発生することもあります。
ブランドンピークの南側の「Gearhane」というピークから下山します。
山の下まで鉄条網が通っているので、鉄条網に沿ってあるけば麓にたどり着きます。
鉄条網の脇にも道が通っていて歩きやすかったです。
下山中のブランドン湾方面の眺め。
無事に麓に降り立ちましたが、ここから登山口まではまだかなりの距離があります。
途中で牛の行列とすれ違いました。
ここはクログヘイン(Cloghane)という村のメインストリートです。
ブランドン山の登山口に一番近い村です。
クログヘインのメインストリートには、茅葺屋根のお洒落なパブがありました。オドンネル(O'Donnell's)というパブです。音楽セッションもやっているようなので、今度行ってみようかなと思います。
クログへイン(Croghane)を過ぎたら、ディングル・ウェイというウォーキングコースを歩いてファハ(Faha)の登山口に戻ります。
ディングル・ウェイはケリー州の州都トラリーを始点/終点とするディングル半島をぐるっと一周回る全長162kmのウォーキングコースです。
アイルランドにはディングル・ウェイのような比較的に距離の長いウォーキングコースが44コース整備されていて、ナショナル・ウェイマークト・トレイルス(National Waymarked Trails)と呼ばれています。
ディングルウェイの道しるべ
無事に登山口に戻りました。歩いた総距離は18.1km、所要時間6時間28分でした。
下山後ブランドン山の登山口から北東に5kmほど行ったところにあるブランドン・ポイント(Brandon Point)に行ってみました。
聖ブレンダンがアメリカへの航海へ出発した岬と言われています。
聖ブレンダンはコロンブスよりも900年以上も前の6世紀初頭にこの岬からアメリカへの航海へ出発したそうです。
聖ブレンダンはディングル半島最高峰のブランドン山の名前の元となったアイルランドの聖人です。
6世紀初頭に楽園を探し求めアメリカへ渡ったとされ、アイルランドでは旅行者の守護聖人とされています。
聖ブレンダンのアメリカへの航海の話を聞くことは、日本では滅多にありませんので、知らない人がほとんどだと思います。
アイルランドでもこの話がどのくらい知られているのかは分かりませんが、1970年台半ばに聖ブレンダンの航海を再現した冒険家が居て、その再現航海の模様がドキュメンタリー映画として公開され評判になったようです。
イギリスの冒険家「ティム・セヴェリン(Tim Severin)」によるアイルランドからアメリカへの実験航海の模様を綴った冒険記「ブレンダン・ボヤージ(The Brendan Voyage)」。
航海の模様を記録した同名のドキュメンタリー映画も公開されています。
ドキュメンタリー映画のサウンドトラックも発売されています。
ブレンダン・ボヤージのサウンドトラックにはアイルランドのバグパイプ「イリアン・パイプス」がフィーチャーされています。
パイプスの演奏はリアム・オフリンが担当しています。
映画のサントラですので、オーケストラ仕立ての曲が多く、オケとイリアン・パイプスが共演している曲が多く収録されています。
今でこそアイルランドの伝統楽器とオーケストラとの共演は珍しいものではなくなってきていますが、これがリリースされた1970年代半ばはオケとアイルランドの伝統楽器との共演は多くなかったと聞きます。
アイルランド伝統音楽が好きな方にはぜひお勧めしたいサウンドトラックです。
サントラに入っている「ニューファンドランド」という曲です。
同じ曲の動画バージョン。オケはアイルランド国立ユースオーケストラだそうです。
ティム・セヴェリンとその一行は1976年にディングル半島のブランドン・クリーク(Brandon Creek)という所より航海に出発し、1977年にカナダのニューファンドランド島への上陸を果たしました。航海に使った船は聖ブレンダンの時代に用いられていたと言われる「カラハ」と呼ばれる革張りのボートでした。
彼らが実際の航海で使った船は現在クレア州のクラガウノーウェン(Craggaunowen)という所に展示されています。
ティム・セヴェリン達が実際の実験航海で用いた船。
聖ブレンダンが生きた6世紀初頭に用いられていた船と同じ技術で造られているそうです。
このような構造の船だそうです。
ティム・セヴェリン達が通った航路。アイスランド、グリーンランドを経由してニューファンドランド島に上陸しています。昔のアイスランドのバイキングも同じようなルートでコロンブスよりも前にアメリカに渡っていたそうです。
実際の航海の際はケルト十字が描かれた帆が使われていました。
船の展示室に置かれている解説板。「本当のところ誰がアメリカを発見したの?」というタイトルで、聖ブレンダンのアメリカへの航海の話と、ティム・セヴェリンの実験航海について書かれています。
2回目にブランドン山に登った時は日本から訪ねてきた友人を連れてのグループ登山でした。
同行者は私以外に2名。
一人はワンゲル出身で海外登山の経験もあるエキスパート。登山用品も日本から持ってきていました。
もう1名は登山経験ゼロの全くの初心者。靴も雨具も何も持っていなかったので、前の日にトラリーのアウトドア用品店で最低限の用品を揃えました。
ブランドン山は割と簡単に登れる山なので、ワンゲル出身の彼女には物足りなかったようですが、山から見える景色は独特なようで、景色の雄大さには感動していたようでした。もう1人はアイルランドの山独自の強風には閉口したようですが、低地では絶対に見ることのできない雄大な景色が見れて満足した様子でした。
風が強くなったのでもう一枚ジャケットを羽織ろうとしているところです。
キジ撃ちに行こうしているのではありません。
ちなみにアイルランドのアウトドア用品店には「Shewee」なる商品が売られています。
何に使うものかは「名称」と「形状」から想像してみてください。(笑)
下のトラリーのアウトドア用品店にも置いてありました。
上のアウトドア用品店で買った雨具上下。
本当はゴアテックスのがいいのですが、高くて買えなかったので一時しのぎ用ということで一番安かったのがこれでした。
前に登った時にもあった注意書き。
この門を越えた先にブランドン山の登山道があります。
門も前に登った時と変わっていませんでした。
聖ブレンダンもお変わりないようでした。
ブランドン山の登山道。登山道もちゃんと以前と変わらず歩きやすかったです。
道しるべもちゃんと書かれてありました。
この日も美しいハープ湖(Lough Cruite)を眺めることができました。
前回登った時はこの辺りから前に見える崖を登って尾根に出る辺りまでを写真に収められなかったので、今回は尾根に出るまでの途中の様子も撮ってみました。
崖を登るといっても、よじ登るのではなく、ちゃんとした登山道をジグザグに登っていくだけなので特に危険なことはありません。
下に登ってくる人たちが見えると思います。(クリックで拡大できます)
徐々に高度を上げていく感じで登っていきます。
かなり奥まで羊が居ます。
崖の下からブランドン山の頂上にある十字架が見えました。
尾根の上に出た辺りの東側(登山口方面)の眺めです。
ブランドン山の頂上に無事到着。恒例となった山頂での記念撮影です。
見えにくいのですが、ここまでの道のりです。(画面上にここまで歩いた"軌跡"が表示されるのです)
登山口から頂上までの距離は5.68km、所要時間2時間でした。
ブランドン山の頂上から北西の、三姉妹(スリーシスターズ)方面の眺め。
前回登ったときにも見えた島。多分スケリッグ・マイケル島?
ブランドン山頂上から東側(登山口方面)の眺め。
頂上から東側(登山口方面)のブランドン湾の海岸線の眺め。(目いっぱいズームしています)
帰りはここから下山します。
往復で11.69km、所要時間4時間4分でした。
下山後ブランドン・ポイントにも寄ってみました。
ブランドン・ポイントは聖ブレンダンがアメリカへの航海へ旅立った岬です。
ブランドン・ポイントからの眺め
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