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[リムリックとケリーを結んだ鉄道の廃線跡を徒歩と自転車で散歩]
Great Southern Trail walking and cycling along the old railway track
アイルランドは北海道サイズの小さな国ですが、他の国と同じように鉄道が通っています。下は現在のアイルランドの鉄道路線図です。
現在のアイルランドの鉄道路線は基本的に首都のダブリンと地方都市を結ぶ路線が主で、地方と地方を結ぶ路線はほとんど通っていません。
以前は地方と地方を結ぶローカル鉄道も通っていたのですが、モータリゼーションの発達とともに多くの路線が廃線となってしまいました。
下の画像は1906年のアイルランドの鉄道路線図ですが、100年以上前の方が鉄道路線が充実していたようです。
上の路線図に載っている路線のほとんどは1960年代までに廃線となってしまったのですが、場所によっては廃線となった線路の跡が遊歩道やサイクリングロードとして利用されていたり、かつての駅舎が住居や観光施設として使われています。
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私の住むクレア州のお隣のリムリック州には、その昔リムリック州の州都であるリムリック市とケリー州の州都トラリーを結ぶ「グレート・サウザン鉄道(Great Southern Rail)」という鉄道路線が通っていました。
一部の路線は最近まで貨物用路線として使われていたので、今でも綺麗な状態で線路が残されています。
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特に「ラスキール(Rathkeale)」から「アビーフィール(Abbeyfeale)」の間は、「グレート・サウザン・トレイル*」というウォーキングコースとして整備されていて、このエリアを代表するアウトドア・アクティビティスポットして人気を集めています。
*元の路線の名称である「グレート・サウザン・レイル(Great Southern Rail)」の「レイル(Rail=鉄道)」と「トレイル(Trail=小道)」をかけています。
上はグレート・サウザン鉄道のウォーキングコースして整備されているセクションの拡大図です。現在のところ「可愛い村」でお馴染みのアデア(Adare)のお隣のラスケール(Rathkeale)からアビーフィール(Abbeyfeale)に至る96kmのルートがウォーキングルートとして整備されています。
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私はこのコースを自転車と徒歩で数回に分けて通ってみましたので、以下に旅の模様を紹介していこうと思います。
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公式にはラスケールからスタートするグレート・サウザン・トレイルですが、私は一つ手前の「アデア」という町からスタートしてみました。
アデアは「地球の歩き方」でアイルランドで一番可愛い村と紹介されている村で、アイルランドの中でも特に日本人観光客が多く訪れる場所の一つとして知られています。
アデアへの入り口。町の入り口には2008年に「Tidy Towns」で銀メダル(Silver Medal)を獲得したと書いてあります。
アデアのメインストリートには、こんな可愛らしいコテージが10軒以上軒を連ねています。
アデアのメインストリート沿いにある公園です。「アデア公園」というそうです。広すぎず狭すぎずといったちょっと散歩するのに丁度良い感じの公園です。
アデア公園の一角に興味深い場所があります。
ここは昔公共の洗濯場として使われていた所だそうです。
このような場所のことを「ウォッシング・プール(Washing Pool)」というそうです。
アデア公園にはなぜかアイリッシュ・ミュージックの最高権威である「コールタス・キョールトリ・エーレン(Comhaltas Ceoltóirí Éireann)」のLabhrás O'Murchúの名前が刻まれた碑がありました。Labhrás O'Murchúはコールタスの実施的な最高責任者で、大統領候補にもなったこともある政治家でもあります。
メインストリート沿いにある「聖ニコラス教会 (St Nicholas Church)」というプロテスタントの教会です。アデアにはカトリックとプロテスタントの教会があります。
聖ニコラス教会(St Nicholas Church)の少し先には、デズモンド城(Adare Desmond Castle)という昔のお城があります。城の横にはメーグ川(River Maigue)という川が流れています。
メーグ川(River Maigue)に架かるアデア橋(Adare Bridge)。
奥にデズモンド城が見えます。
メーグ川沿いにはリバー・バンク・ウォーク(River Bank Walk)という遊歩道が通っています。
メーグ川に架かる鉄橋です。この鉄橋のすぐ先にアデア駅の駅舎があります。
鉄橋に敷かれた線路のリムリック方面の眺めです。この路線は現在は使われていませんが、線路はまだ綺麗な状態で残されています。2002年まで貨物列車が運行されていたそうです。
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左奥に見えるのがアデア駅の駅舎です。1963年まで駅として使われていたそうです。
アデア駅の前を通る線路。ケリー方面は草に覆われていて、枕木やレールが大分傷んできています。
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リムリックのアデアは日本人観光客が多く訪れる町です。日本人が多く訪れる理由の一つがこの町が「アイルランドでもっともかわいい村」として紹介されているからだと思います。
地球の歩き方のアイルランド版には、アデアは「アイルランドで最もかわいいといわれている村」。1976年に「かわいい村コンテスト」で優勝したと紹介されていますが、実はアイルランドで「かわいい村コンテスト」というのは行われていません。1976年当時も行われていません。
地球の歩き方にも書いてあるのですが、「Tidy Town Competition」というコンテストであれば開催されています。
Tidy(タイディ)とは「きちんとした」とか「こぎれいな」という意味はありますが、「かわいい」と訳してしまってもいいのかどうかかなり微妙なところのような気がします。
実際の「タイディ・タウン・コンテスト」で競われるのは「可愛さ」ではなく「小奇麗さ」なのです。
確かにアデアは1976年の「タイディ・タウン・コンテスト」で優勝していますが、後にも先にもその1回だけです。
タイディ・タウン・コンテストは毎年開催されていて、アデア以外にも「可愛い村」になった場所があるのですが、アデア以外の場所は地球の歩き方には紹介されていません。
ちなみにドネゴール州のグレンティーズ(Glenties)という町はこの「タイディ・タウン・コンテスト」通算5回優勝しているので、コンテストの優勝回数でいえばアデアの「可愛さ」を上回っているはずなのですが、地球の歩き方では紹介されていません。
実は私の住むクレア州の州都であるエニスもこのタイディ・タウン・コンテストで優勝したことがあるので、地球の歩き方に「かわいいい村コンテスト」で優勝したと紹介されてもいいと思うのですが・・・
アイルランドにはアデア以外にも「可愛い村」が沢山ありますので、ぜひ他の村にも行ってみてください。
以下は「かわいい村コンテスト」で優勝した村のリストです。
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アデアから西側に10kmほど行ったところに「バリンガーレイン(Ballingarrane)」という小さな村があります。
この村にはアデアの次の停車駅「バリンガーレイン駅」があります。
アデアからバリンガーレインまでの路線はほぼ全線において線路が残った状態になっています。
バリンガーレイン駅の手前の踏切。恐らく踏切が開くことは今後2度ないのかもしれません。
表側(改札側)から見たバリンガーレイン駅。
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バリンガーレイン駅の次の駅は国道21号線沿いの中規模な町、「ラスケール(Rathkeale)」の町はずれにあります。
グレート・サウザン・トレイルのウォーキング/サイクリング・コースはこのラスケール駅から整備されています。
ラスケールのメインストリート。ラスケールは"トラベラー*"の多い町として有名な町です。"トラベラー"とは"旅行者"のことではありません。詳しくはこちらをご覧になってください。*トラヴェラーとも
ラスケールのメインストリート沿いのパブ「フィドラーズ・グリーン」。セッションをやっているかどうかは不明。お客さんもミュージシャンもトラベラーだけだったらちょっと怖いかも・・・
ラスケール駅の駅舎です。ラスケールの町はずれにあります。1963年まで駅として使われていたそうです。現在はどのように使われているのかは不明です。プラットフォームはなく、線路のレールも取り払われてウォーキング&サイクリングコースとして利用されています。
前に延びる細道がかつての線路の跡です。前方に見えるのは車両格納庫だそうです。
ラスケール駅の近くは公園としても整備されているので、ぱっと見はここにかつて線路が敷かれていたとは分からないと思います。
しばらく森の中を進みます。列車も同じように森の中を進んでいったのでしょうか。道なりに進むと次の駅「アーダ(Ardagh)駅」に到着します。
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ラスケールの次の駅アーダ駅からニューキャッスル・ウエストを目指します。
アーダ駅*(Ardagh Station)の駅舎はアクセスしやすく、いい感じに廃墟化していて、個人的に気に入っているアイルランドの廃墟スポットの一つです。
*アルダーとも
表側(改札側)から見たアーダ駅。
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アーダ駅とニューキャッスル・ウエスト駅の間は距離が短く、コースもよく整備されていて徒歩でも自転車*でもどちらでも気持ちよく通ることができます。
*舗装されていないので、ロードバイクはNG
アルダー駅からラスケール駅方面の眺め。ラスケール側は未整備の所が多く、草ぼうぼうで通りにくかったです。
アーダ駅のすぐ近くにあった「コープ」。アイルランドにも生協(CO-OP)があるのです。
アーダ駅から先の区間(ケリー方面)はコース上の道しるべや、案内板が充実しています。
グレート・サウザン鉄道の廃線の上を歩いていきます。ぱっと見はどこにでもあるような農道ですが、もともとここに鉄道が通っていました。
次の駅のあるニューキャッスル・ウエストに着きました。グレート・サウザン鉄道はニューキャッスル・ウエストでレイアウトがガラリと変わります。
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ニューキャッスル・ウエストはリムリック州で二番目に大きな町と言われています。リムリック州内の他の町に比べると多少大きいかもしれませんが、基本的には典型的な国道沿いの地方の町といった感じです。
普通の住宅街の中なのですが、実は前を行くこの道路こそグレート・サウザン鉄道の線路跡だったりするのです。
歩けど歩けど、駅舎らしい建物が見えてこないで、建て壊されて完全に住宅街となってしまったのかなと思っていたら・・・
住宅街の中に一軒だけ古い造りのお家があったので、もしやこれが駅舎ではと思い裏に回ると・・
案の定裏にはプラットフォームと線路がありました。ぱっと見は普通の家だし、プラットフォームと線路も塀で隠れているので、この家が昔は駅だったとはなかなか気が付かないかも。。
線路の先にこのお家の離れがあって通せんぼされているし、辺り一帯住宅街となっているので、今後この路線が復活することはないのでしょう。
ニューキャッスル・ウエストの町中の通りです。
せっかくなので、町中を散策してみることにしました。
ニューキャッスル・ウエストといえばアイルランドを代表するミネラルウォーター「バリーガワン*(Ballygowan)」の採水地&ボトリング工場がこの町にあります。(*バリーゴーワンとも)
アイルランドのスーパーやコンビニでよく見かけるこのミネラルウォーターはニューキャッスル・ウエストで採水されボトルに詰められ出荷されているのでした。
ニューキャッスル・ウエストには「KIMONO」という名前の洋服屋さんもあります。個人経営の小さなお店ですが、コーク州のチャールビル(Charleville)にも支店を出しています。
お店の人に店名の由来を聞いたら、従妹が日本に住んでいるのだそうです。
本人も従妹の影響で日本通になったそうで、ぜひ自分の店に日本語を使いたかったのだそうです。
コークのチャールビル(Charleville)に支店を出しています。
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グレート・サウザン・トレイルの次の目的地は、「バーナ(Barnagh)」という場所です。
住宅街の中にあるニューキャッスル・ウエスト駅から住宅街を抜けて線路跡へと戻ります。
グレート・サウザン鉄道で使われていた踏切が残されているところがありました。角に建つ家はもともと駅舎だった建物なのかなと思ったら、違うそうです・・バーナ駅は他の所にあるそうですが、今回は発見できませんでした・
元々は列車の通れる石造りの立派な高架橋が架けられていたそうですが、現在は歩行者/自転車用の簡素な造りの橋に架け替えられています。
ニューキャッスル・ウエストから4kmほど走ってきました。この先にはグレート・サウザン・トレイルのハイライト、「バーナのトンネル」が待ち構えています。
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バーナのトンネルはグレート・サウザン鉄道のニューキャッスル・ウエスト駅とバーナ駅の間にある、全長約100メートルのトンネルです。
1880年に完成したそうで、ダイナマイトなどの火薬を用いずに全て素掘りで掘られたそうです。
谷間の中に忽然と現れるトンネルは、グレート・サウザン・トレイルのハイライト&アイルランドの廃墟マニアの間で人気のスポットとなっています。
これが1880年に掘られたバーナのトンネルです。1960年代まではここを蒸気機関車が走っていました。
長さ約100メートルなのですぐ反対側に出れますが、途中まったく明かりがないのでそこそこのスリルが味わえます。
高台を通るグレート・サウザン鉄道の線路跡からの眺めです。
この高台の所にグレート・サウザン鉄道についての説明板が建っています。
グレート・サウザン鉄道の説明板。
昔は画像に写っているような蒸気機関車が走っていたそうです。
リムリックとケリーのトラリーを結ぶ国道21号線(N21)です。
グレート・サウザン鉄道のレールはこの道路の上を通っていたのですが、現在は跡形もありません。
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グレート・サウザン鉄道の線路跡は、バーナを後にデヴォンロード(Devon Road)へと向かいます。
一旦国道21号線(N21)で線路跡が途切れてしまいますが、その後再び復活(?)します。
バーナからアビーフィール(Abbeyfeale)まで約20kmとやや距離がありますが、このセクションはよく整備されていて自転車でも走行可能です。
やがて駅舎が見えてきます。これがバーナ駅の次の駅「デヴォンロード駅(Devon Road Station)」です。
駅舎の建物にはパラボラアンテナが付いているので、最近まで普通の住宅として使われていたようです。
表側(改札側)の様子。辺り一面駅以外の建物がまったくない超ど田舎です。駅としても機能しなそうですが、ここに住むのも大変そう・・
途中に橋の架かっていない鉄橋の跡がありました。ここは迂回して通ります。
デヴォンロード駅からアビーフィール駅の間では、鉄道時代の痕跡を多数見ることが出来ます。
バーナのトンネルと並んで、グレート・サウザン・トレイルのハイライトの一つである森の中を通る廃線跡。夏になると緑のトンネルになるそうです。
線路脇(正確には線路跡の脇)に生えていたつくし。アイルランドでも春になるとつくしが見れます。
こちらは線路脇に生えていたぜんまい。アイルランドのぜんまいは巨大です。
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デヴォン・ロード駅の次の駅はアビーフィール駅です。
アビーフィールはリムリック州南部の町で、ケリー州と県境を接しています。
両端がアビーフィール駅のプラットフォームです。線路のレールや枕木はなく草ぼうぼうになっています。
プラットフォームの奥にある建物が駅舎だった建物で、現在は普通の住宅になっています。プラットフォームは駐車スペースになっていました。
アビーフィール駅のすぐ先のもともとは鉄橋が架かっていた地点。
路線を復活させるのは大変そうです。
アビーフィール駅の隣には「The Railway Bar」というパブがあります。
初めてここに来た時は、鉄道の通っていない町になんで「鉄道バー」なんて名前のパブがあるんだろうと不思議でしたが、実は旧駅舎のすぐ隣にあったのでした。きっとグレートサウザン鉄道が現役で通っていた時代から営業しているのでしょう。
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アビーフィールは国道21号線沿いの小ぢんまりとした町で、ケリー州のトラリー(Tralee)やリストーウェル(Listowel)に行く時に通る町です。
スーパーや銀行、ガソリンスタンド等が完備していて、それでいてコンパクトにまとまっているので、ケリー方面に行くときに給油や食料の買い出しで寄るのに便利な町です。
アビーフィールのメインストリートには面白い名前のファーストフード店が2軒あります。
1軒はスーパーバイツ(Superbites)という名前のファーストフード店。
もう1軒はスーパーマーズ(Superma's)というファーストフード店です。
どちらもファーストフード店ですが、どう見ても「スーパーマックス(Supermac's)」のパクリです。
とくにこの「スーパーマーズ」の一文字抜いただけ*の超手抜きな店名に思わず笑ってしまいました。
*本家の「Supermac's」に対し、「Superma's」。「C」が一文字抜けているだけです。。
こちらは本家の「スーパーマックス(Supermac's」です。アイルランド中に出店している人気のファーストフード店です。