アイリッシュ音楽で弾かれる「リール」だとか、「ジグ」といった種類の曲はもともと*はダンスのための曲です。(*今でもダンスのための曲です)
「リール」=「曲の種類」でもありますが、「リール」=「ダンスの種類」でもあるわけです。
アイルランドの音楽の演奏の上達には、アイルランドのダンスのことを知ることも大切です。
といっても音楽もそうなのですが、アイルランドのダンスにも色々な種類のダンスがあり、「アイリッシュ・ダンス」とは「こういうダンス」とはっきり言えるものではありません。
アイリッシュダンスはまず大きく2つに分けることができます。
一人で踊る「ソロ・ダンス」と、複数人で踊る「グループ・ダンス」です。
それぞれのダンスが細分化され、ソロのダンスもグループのダンスも数種類の異なるダンスが存在しますが、だいたい大まかに分けると5種類のダンスがあります。
このページでは基本となる5種類のダンスと、そこから派生していったリバーダンスなどの商業ダンスを紹介しています。
一般的に「アイリッシュ・ダンス」といえば「ステップダンス」のことを指します。「ステップダンス」といっても大きく分けて2種類のダンスがあります。
一つは所謂普通の「ステップダンス」で、普通アイリッシュダンスといえばこれを指します。もう一つは「シャーン・ノス(Sean-Nós)」という、ゴールウェイのコネマラで踊り継がれてきたコネマラ独特のダンスです。「ステップダンス」には現在のステップダンスの元となった「オールド・スタイル・ステップ・ダンシング」というのもあります。
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アイルランドで「アイリッシュ・ダンス」といえば普通はこのダンスのことを指します。
リバーダンスやラグース、トリニティなどといった日本によく来る商業ベースのショーダンスはここから派生いきました。
このダンスはアイルランドのみならずアイルランドからの移民の多いアメリカやカナダ、オーストラリアやニュージーランドなどといった国々でも踊られています。
アイリッシュダンスのことを何も知らない人に、アイリッシュダンスを見せると「タップダンスみたいですね」という人が多いのですが、そもそもタップダンスはアメリカに移民したアイルランド人たちの踊りが元になって発展していったそうです。
なので厳密には「アイリッシュダンスがタップダンス」に似ているのではなく、「タップダンスがアイリッシュダンス」に似ているのです。
アイルランドでは子供のお稽古事として人気があります。
子供の時から習うもので、認可されたダンス・スクールで習うのが基本です。
競技性の強いダンスで、競技会に出場するとなると認可された教室で資格を持った先生について習っていないと、出場ができません。
このダンスにアイルランドで最初に始めたのはゲーリック・リーグ(ゲール語同盟)*といわれています。
*ゲーリック・リーグ=イギリスの統治下の18世紀末にアイルランド文化の復興を掲げてダブリンで結成された団体。ゲーリック・リーグを中心としたアイルランド文化復興運動は、のちのアイルランド独立への気運を高めていくこととなりました。
現在のアイリッシュダンスの世界における最高権威は「An Coimisiún Le Rincí Gaelacha (略してCLRG)」という協会です。
アイリッシュダンスの世界選手権や認定講師の試験などはこの協会によってオーガナイズされています。
ボクシングやプロレスにおいても複数の協会があるように、アイリッシュダンスにおいても「CLRG」以外の協会もありますが、一般的にアイリッシュダンスの協会といえば「CLRG」が一番有名です。
所謂一般的に「アイリッシュ・ダンス」といえばこのようなダンスのことを指します。
アイリッシュ・ダンスのドキュメンタリー番組です。(アメリカで放映されたものと思われます)
番組の中でも言っていますが、アイリッシュダンスは非常に過酷な「スポーツ」なのです。常に怪我が付きまといますし、衣装代やら試合に出るための遠征費などで物凄くお金がかかります。(衣装が一着3000ドルとか言っていますね)
アイルランドでは特に決まった名称はないのですが、日本では「①-1」の「ステップダンス」と区別するためにこのように呼ぶことが多いようです。
現在の「ステップダンス」の元となったダンスがこのダンスですが、現在はそれほど盛んには踊られていません。
アイルランド音楽の演奏を目指すのであれば必読とも言える、アイルランド音楽の基礎的なことを知ることができる名著「アイルランドの民俗音楽とダンス」の「第5章 - 舞踏教師」の章で解説されている舞踏教師(ダンシング・マスター)たちによって広められたダンスを元としたダンスがこの「オールド・スタイル・ステップダンス」です。
「アイルランドの民俗音楽とダンス」はアイルランド音楽やアイリッシュダンスに関わるのであればぜひ読んでおきたい一冊です。右は原書版です。
第5章の「舞踏教師」の章では18世紀に活躍したトラベリング・ダンシング・マスターについて詳しく解説されています。この章に書かれていることはアイリッシュ音楽の演奏にも役に立ちます。
オールド・スタイル・ステップダンスの参考動画です。
シャン・ノース(Sean-Nós)とはアイルランド語で「オールド・スタイル(古い様式)」を意味します。
「①-2」で解説した「オールド・スタイル・ステップダンス」も古い様式のダンスですが、普通「シャン・ノース」のダンスと言った場合このダンスは含まれません。(ややこしいですが・・)
一般的に「シャン・ノース」のダンスといえばゴールウェイ州のコネマラ地方で踊られてきた主にリールのリズムを即興的に踊るダンスのことを指します。
コネマラ地方のステップダンスは「①-1」の所謂一般的なアイリッシュ・ダンスや「①-2」のオールド・スタイル・ステップダンスと異なり上半身も動かすのが特徴です。
アイリッシュダンスというと直立不動というイメージがあるのですが、コネマラ地方には「①-2」で解説した「トラベリング・ダンシング・マスター」が来なかったので、独自のダンスが発展したと言われています。
アイルランドで人気のリアリティ番組でこのダンスの名手が優勝して有名になったことなどもあり、近年アイルランドではこのダンスの踊り手が増えてきています。
コネマラ出身のエマ・オサリバンのダンス。現在のアイルランドのシャン・ノース・ダンス界を代表するダンサーの一人です。アイルランド版のXファクターとも言える「The All Ireland Talent Show」というリアリティ番組に出場したのきっかけに人気がでました。シャン・ノース・ダンスの教則DVDも出しています。
シャンノースの全アイルランド選手権勝者エマ・オサリバンによる教則DVD
日本では「セット・ダンス」と呼ばれていますが、アイルランドでは普通「セットダンシング」と呼びます。
「セットダンス」と呼んでしまうと曲の「セットダンス」と混同されてしまいます。
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いきなり余談ですが、アイルランド音楽で演奏されている曲の種類に「セットダンス(Set Dance)」という種類の曲があります。
この「セットダンス」というタイプの曲はここで説明する「セットダンス」のための曲ではありません。
というか、「セットダンス」は「セットダンス」という曲で踊る踊りのための曲であって、「セットダンシング」のための曲ではないのです。
分かりやすく(?)いうと、
・アイルランドには「セットダンス」というダンスがあります。
・アイルランドには「セットダンス」というタイプの曲もあります。
・「セットダンス」というタイプの曲は「セットダンス」という曲で踊る踊りのために弾きます。
・アイルランドには「セットダンシング」というダンスがあります。
・「セットダンシング」は「セットダンス」とは異なります。
・日本では「セットダンシング」のことを「セットダンス」と呼んでいます。
ということです。
フィドルの教則本に載っている"セットダンス"というタイプの曲の譜面。
"セットダンシング"と混同しないようにと書いてあります。
さて、いよいよここから本題に入りますが、セットダンス(セットダンシング)は通常男女4組8人が一緒に踊るグループダンスです。
フランスの「カドリール」というダンスが起源と言われています。
一連の踊りに流れの中で各ダンサーの動きが決まっていて、この動きを覚えないことには踊りに参加することができません。
セットダンス(セットダンシング)のダンスの流れを文章で書き表したもの。
〇〇という動作が何小節間あって~、次にこういう動きが何小節間続いて・・・といった感じで書かれています。
数種類の「フィガー」を「セット」にして踊るので、「セットダンス(セットダンシング)」と呼ばれています。だいたい1セットは4~6種類のフィガーから成ることが多いです。
各フィガーにおいて使う曲の種類と長さ(小節数)が決まっているので、セットダンスのために曲を弾く際は曲の種類と長さを把握しておかないといけません。小節数を間違えてしまうと、ダンスと同時に曲が終わらなくなってしまうので大ヒンシュクを買ってしまうことになります。
セットダンスを踊る会(舞踏会)のことを「ケーリー(Céilí)」と呼びます。「ケーリー」とはアイルランド語で「集まり」とか「集会」を意味します。
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ケーリー(セットダンスの舞踏会)でダンスの伴奏をするバンドのことを「ケーリー・バンド」と呼びます。
アイルランド最高峰の伝統音楽コンクール「フラー(Fleadh)」においてケーリー・バンド部門は、陸上競技でいえばリレー種目に相当する、競技会のフィナーレを飾る花形種目です。
フラーのコンクールに出場するケーリーバンドの中には、コンクールに出るためだけに結成されたバンドも少なくなく、実際のダンスの伴奏はしないというバンドも珍しくありません。
私の住むクレア州にはオールアイルランドで優勝したケーリーバンドが3つあります。
一つは「キルフェノーラ・ケーリー・バンド(Kilfenora Ceili Band)」、もう一つは私の住むフィークルの隣村タラ(Tulla)で結成された「タラ・ケーリー・バンド(Tulla Ceili Band)」、最後の一つがクレア州の州都エニス(Ennis)で結成された「エニス・ケーリー・バンド(Ennis Ceili Band)」です。
このうちエニス・ケーリー・バンドはコンクール専門のバンドで実際のケーリーでダンスの伴奏をしたことはありませんでした。
セットダンスの名講師「パット・マーフィー氏」によるセットダンスの指南書「Toss the Feathers」。アイルランドでよく踊られている「セット」の動きが文章によって書かれています。セットダンスのバイブル的な本です。ミュージシャンも必見です。
例えば、「クレア・ランサーズ・セット(Clare Lancers Set)」というセットのフィガー1(Figure 1)であれば、
リール(Reel)で160小節踊るダンス。
(a)最初の8小節を全てのカップルが前で手を繋いで、反時計回りにリードアラウンドして、最後の2小節のところで女性が時計回りに男性の腕の下でターンする。
(b)8小節間全てのカップルがスイングする。etc
とこのように、数小節おきに起こるダンサーの動きが文章で解説されています。
当然のことながら踊る人はこの動きを全て把握していないと踊りに参加できません。
何百というダンスのセットがあるので、全部覚えるとなるとけっこう大変かもしれません。
ダンスの伴奏をする場合は、最低限小節数と曲の種類を把握しておく必要があります。
当然リールを弾くべきところではリールを弾かなければならず、リールで踊るセットでジグやホーンパイプを弾くことはできません。(当たり前ですが・・・)
セットダンスの伴奏をする場合セットダンスで踊られる全ての種類のダンスの曲を弾けるようにしておかないといけません。(リールは弾けるけど、ジグは弾けないとかいうのはもってのほかです。)
クレア・ランサーズ・セットのフィガー1を踊っている動画です。屋外でのケーリーの模様です。ケーリーは屋内で催されることの方が多いですが、夏場のフェスティバルの期間中などは屋外で開かれることもあります。
オールアイルランドフラーのケーリーバンド部門で3年連続優勝を果たした「エニス・ケーリー・バンド」。「ケーリー・バンド」といってもコンクール専門のバンドで、実際のケーリーでダンスの伴奏をすることはありませんでした。
ケーリー・ダンスもセットダンスと同様にグループで踊るダンスです。
「ケーリー(ceili)」と名前が付いていますが、セットダンスを踊るダンス会の「ケーリー」とは違います。
私はアイリッシュダンスの専門家ではないので、どういう説明が一番適しているか分かりませんが、超分かりやすくいうと「1-1」の「ステップダンス」をグループで踊るものと言えばいいでしょうか。
兎に角ケーリー・ダンスとセットダンスは異なるものと覚えておくと良いと思います。
踊り手の中には「ケーリー・ダンス」も「セットダンス」もどちらも踊れるという人も居たりするようです。
ケーリー・ダンスの参考動画です。足のステップだとかがセットダンスのステップとはだいぶ異なるようです。
アイルランドにはこれまでに挙げた以外にも様々な形態のダンスがあります。
ケーリーの合間の休憩時間等に「非公式」に踊られるワルツや、シャン・ノースの応用として"ほうき"を使って踊るブラッシュ・ダンスや、ドアやビールの樽の上で踊るダンスなど、小道具を使ったダンスがあります。
ビール樽の上でおどる「バレル・ダンス」です。
アイリッシュダンスというと真っ先に取りざたされるのが、この分野のダンスのような気がしますが、厳密にいえばこのカテゴリーのダンスは「アイリッシュダンスであってアイリッシュダンスではない」というダンスになります。
このカテゴリーの代表格といえばなんといっても「リバーダンス」でしょう。
最近ではラグースやトリニティ・アイリッシュ・ダンスなどといったダンスショーのグループも日本にやってくるようになりました。
これらのショーダンスはアイリッシュダンスをモチーフとしていますが、アイルランドの伝統のままのダンスではなく、色々と脚色されたショーとしてダンスになります。
基本的な動きとしては「1-1」で紹介したステップダンスに準ずることが多いので、この手ショーダンスの多くは「1-1」のステップダンサーたちが演じることが多いです。
リバーダンスで踊られるダンスの一部です
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