先日都内で実施されたアイリッシュ音楽の演奏者の試験「SCT Exam」を 受験してみました。次回受験してみようかなと思っている方の参考になるかなと思い、どんなことをやったのか試験の模様をお伝えしたいと思います。
SCT Examの試験会場。試験官はアイルランドを代表するフィドル奏者「オシーン・マクディアマダ(Oísin Mac Diarmada)」でした。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
SCT Examはアイリッシュ音楽の国際協会「Comhaltas Ceoltóirí Éireann」が実施するアイルランド伝統音楽の検定試験です。
「SCT」はアイルランド語の「Scrúdú Ceol Tíre*」の略です
(*Scrúdú=試験、 Ceol=音楽、 Tíre=国家(アイルランド)の = アイルランドの国家の音楽の試験)
アイルランドでは1998年より実施されていて、アメリカ、イギリスでも実施されています。
現在は日本でも受験が可能です。
SCT Examは8段階に分かれたアイリッシュ(ケルト)音楽のためのグレードテストです。
グレード1から始まって、グレード8が最上級です。
どのグレードから受けるかは自由に決めることができます。
どのグレードであっても、
「Performance」(実技)
「Alural Awareness」(聴音)
「Research Project, Discussion & Repertoire」
(リサーチ、質疑応答、レパートリー)
「Literacy」(読解力)
の4つの項目に分けてテストします。
最上級のGrade 8を受けてみてので、以下に順を追って試験でやったことを書いてみたいと思います。
SCT試験のSyllabus(概要)。SCT試験で「やること」は全てこのシラバスに書いてあります。シラバスに書いてないことはやらないので、書いてあることだけをできるようにしておけば絶対に合格できます。シラバスはCCÉのサイトよりダウンロードできます。
SCT Examの「Performance」は実技になります。
ここでは実際に楽器で曲を弾きます。
グレード8では
・スローエア 2曲
・ダブルジグ 2曲
・スリップジグ 2曲
・スライド 2曲
・リール 2曲
・リール 1曲 (3パート以上)
を弾きます。曲は好きに決めて構いません。
繰り返しの回数は、ダンス曲の場合は、繰り返しのある曲(1パート16小節)で2回ずつ、繰り返しのない曲(1パート8小節)で3回になります。スローエアは1回だけになります。
上の曲とは別に、マズルカ、フリング、バーンダンス、ホーンパイプ、ショティッシュ、ポルカ、セットダンス、クランマーチ、プランクシティのうちから1曲弾きます。
どれを弾くかは試験官が選びます。
試験官がマズルカを弾いてくださいといえばマズルカを弾き、フリングを弾いてくださいと言われたらフリングを弾きます。
どれを当てられるか分からないので、どのタイプの曲でも弾けるようにしておかないといけません。
ちなみに私はショティッシュを弾かされました。
アイリッシュ音楽で演奏される曲の種類についてはこちらのページをご覧ください。
"曲のタイプ&装飾音当てテスト"とは試験官が弾いた曲が「何というタイプの曲」で「どんな装飾音が使われた」かを言い当てるテストです。
弾かれる曲はエア、マーチ、ポルカ、ダブルジグ、スライド、ホーンパイプ、スリップジグ、マズルカ、バーンダンス、フリング、クランマーチ、シングルジグ、ショティッシュのいずれかになります。
試験が弾いた曲を聞いて、その曲が「ダブルジグ」であれば「ダブルジグ」と答え、「スリップジグ」であれば「スリップジグ」と答えます。
曲が弾かれる時に使われた装飾音も言い当てます。
トリプレットが使われていればトリプレットと答え、ロールが使われていればロールと答えます。
私の時は「バーンダンス」が弾かれ、途中で「トリプレット」が効果的に使われていました。
SCT Examの「Aural Awareness」セクションでやる「曲の瞬間耳コピ」とは、試験官が弾いた曲を3回聞いて、オウム返しに弾き返すということをやります。
曲は4分の4拍子で、ニ長調か、ト長調か、イ長調のいずれかの曲の2小節分だけが弾かれます。
試験官が2小節分を3回繰り返し弾くので、それをよく聞いて3回弾き終わった後に、試験官が弾いたことと全く同じ通りに弾き返します。2小節の中に装飾音が使われていれば、使われたのと同じタイプの装飾音を使って弾き返します。もしそれがロールであればロールを弾き、トリプレットであればトリプレットを弾きます。
つまるところが「瞬間耳コピ」というわけです。
これはアイリッシュ音楽を学ぶ上でぜひ見に付けておきたい技術の一つです。普段から耳コピで曲を学ぶ習慣がついていれば、試験でも簡単にできると思います。
私の時は途中で「ロール」が入る「リール」が出ました。
Aural Awarenessの「曲のモード当てテスト」とは試験が弾いた曲を聞いて、その曲の調が「何のモード」だったかを言い当てます。
アイリッシュ音楽では所謂普通の長調/短調以外に「モーダル・キー」の曲も多くあります。
試験では試験官がある曲を1曲通して弾くので、それを聞いて「何モード」だったか言い当てます。
弾かれる曲のモードは
・アイオニアンモード (ド・モード) (GかD)
・ドリアンモード (レ・モード) (GかD)
・エオリアンモード (ラ・モード) (GかD)
のいずれかになります。
試験官の弾いた曲を聞いて、それがGのアイオニアンモードであればGのアイオニアンモードと答え、DのドリアンモードであればDのドリアンモードと答えます。
モードを言い当てる際に「なぜこの曲はモードなのか」ということも説明しなければいけません。
私の時はDのエオリアンモードの曲が弾かれました。
アイルランド音楽の音階についてはこちらのページもご覧ください。
SCT Examの「Research Project, Discussion & Repertoire」では、事前に提出した作文の内容に沿って試験官と質疑応答を行います。
作文の内容はグレードによって異なります。グレード8ではある演奏家のライブやコンサートについて1,000語で作文を書いて提出します。
作文で書いたことについて試験官が色々と聞いてくるので、聞かれたことについて答えます。
私はメアリー・マクナマラというコンサーティーナ奏者のコンサートに行ったときの話を書きました。
質疑応答のコーナーでは最近リリースされたCDについても聞かれるので、最近リリースされたCDについての自分の感想を述べます。
私は最近買ったクレアのフィドル奏者のCDの話をしました。
このセクションでは「レパートリー・リスト」の提出も求められます。
9種類以上のタイプの曲で構成された最低60曲をリストに書き出して提出します。
60曲の中に「実技」で弾いた曲を含めることはできません。
試験官がレパートリーリストからアットランダムに曲を選んで弾くように求めてくるので、言われた曲を弾きます。
私の80曲くらいをリストにして提出し、その中から6~7曲弾かされました。
SCT Examの「Literacy」は「読解力」のテストです。
グレード8では3種類のモードをニ長調で弾きます。
3種類のモーダルスケールとは、
・ドリアンモード (レ・モード)
・エオリアンモード(ラ・モード)
・ミクソリディアモード(ソ・モード)
の3種類です。これらをニ長調(Dメジャー)で弾きます。*
*公式シラバスに
「Candidates will be asked to play the following 3 Modal Scales of D major, one octave up and down: Ray Mode(Dorian Mode), Lah Mode (Aeolian Mode) and Soh Mode (Mixolydian)」
と書いてあるので、そのまま訳しました。「ドリアンモードをDメジャーで」って分かりにくい表現ですが、試験ではまんま「書いてある通りのこと」をやります。
このセクションでは初見演奏もやります。
ニ長調か、ト長調か、イ長調で書かれた、2パートのリールの楽譜を渡されるので、譜面を2分間を見たのち曲を弾きます。正確なリズム(リール)で弾くことが求められます。
私の受けた時は試験官自らが作曲したイ長調の曲が出ました。
アイリッシュ音楽を演奏するのに、SCT試験に合格していないといけないという決まりはありません。
SCT試験でやる内容はアイリッシュ音楽を演奏するために知っておいて、出来るようにしておいて損のない知識や技術です。
試験の中で問われるモーダルキーの知識や、「曲の瞬間耳コピ」の技術、装飾音の聞き分け、使い分けなど、試験を受ける受けないに関わらずこういうことが身についていればいいのですが、意外と自分が出来ているか出来ていないかを簡単には見極められないものだと思います。
このような試験を受けると忘れかけていたり、抜け落ちていた知識や技術を思い起こさせてくれるので、自分の演奏技術や知識を保つために有効かなと思いました。
試験結果は後日送られてくるそうなので、結果が楽しみです。
試験に合格するとこのような合格証を貰えます。私がアイルランドに住んでいた時に受けた試験の合格証です。この頃の試験は「Royal Irish Academy of Music (アイルランド王立音楽院)」が実施していました。
合格証と合わせて評価シートも付いてきます。
評価シートには良かった点、悪かった点、悪かった点があればどこをどうするといいなど、試験官からのアドバイスが書いてあるので、とても励みになります。
奇しくも私がアイルランドで受けた試験の時の試験官もオシーン・マクディアマダでした。
SCT Examの最上級グレードを所定の成績で合格すると、CCÉより「Mícheál Ó hEidhin Medallion」という賞が贈られるそうです。
Mícheál Ó hEihinはSCT Examの提唱者で、アイルランドの音楽教育界を代表する人物です。
先日受験したSCT Examの最上級グレードGrade 8の試験結果が届きました。
結果は無事合格でした。
Grade 8の合格証
評価シートには審査員からコメントが色々と書いてあり、今後の演奏の励みになります。
←元のページに戻る |
[アイリッシュ音楽の教室/レッスン情報]
[バンジョーのレッスン] [オンラインレッスン]
[レッスン代について] [レッスンのよくある質問]
[フィドル/バイオリン関係]
[演奏スタイル] [フィドルの基本の基本] [練習方法]
[フィドルのお勧めCD] [教則本や曲集の紹介]
[お隣の名フィドル奏者] [フィドル奏者名鑑]
[ティンホイッスル(縦笛)関連]
[バンジョー関連]
[アイルランド音楽全般]
[アイルランドの曲] [アイルランド音楽の音階]
[アイルランド音楽の楽譜]
[ABC譜] [初心者向け定番曲集] [セッション定番曲集]
[アイルランド音楽の試験、指導資格、留学情報]
[アイルランド音楽の試験] [試験のススメ]
[アイリッシュ音楽の試験(SCT Exam)を受験]
[アイルランド音楽のフェスティバル]
[アイルランド音楽の国際コンクール]
[Home]
[レッスンの料金]
[よくある質問]
[プロフィール]
[お知らせ]
[お問い合わせ]
[フィドルとは]
[ブログ]
[アイルランド生活]