このページは、アイリッシュ(ケルト)音楽の検定試験「SCT Exam」について説明したページです。
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SCT Examはアイルランド音楽の国際協会「Comhaltas Ceoltóirí Éireann(略してCCÉ)」が1999年より実施しているアイルランド音楽の演奏技能検定です。
「SCT」とはアイルランド語で「Scrúdú Ceol Tíre」の略でそれぞれの単語は「Scrúdú = 試験、テスト」、「Ceol = 音楽」、「Tíre = 国の」という意味で、「SCT」を直訳すると「国(アイルランド)の音楽の試験」になります。
SCT Examはアイルランド音楽界の権威である「CCÉ」が認定するアイルランド音楽で唯一目に見える形として結果を残せる「検定試験」です。
決してアイルランド音楽を演奏したり学んだりする人が皆受けないといけないというものではありません。
試験を受ける受けないはそれぞれの演奏家/学習者の自由です。
SCT Examは8段階に分けられたグレードテストで、グレード1から始まりグレード8が最上位グレードとなります。
試験は8段階に分かれています
どんな楽器でも受験可能です。リルティングやホイッスリング(口笛)など楽器以外でも受験可能です。
どのグレードから受けるかは自由に決めることができます。ただしいきなり最上位のグレード8を受けることはできません。
グレード6以上のグレードを受験するためには、まず先にグレード6に合格しておかないといけません。
飛び級が可能です。(グレード6の後に最上位のグレード8を受けることも可能です。)
年齢に関わらずどのグレードでも受験できます。
ただしグレード6以上を受けるためには受験する年の1月1日に14歳に達していないといけません。
SCT Examは現在アイルランド、アメリカ、イギリスにて正式に行われています。
アイルランドでは年2回、冬と夏に試験が行われています。
冬の試験であれば1月から2月の間に各地で順番に行われていきます。
全国一斉に同じ日に試験が行われるのではなく、試験官が各地域を順番に回ってそれぞれの地域に設けられた特設会場で行われます。
会場は学校や公民館、時にはホテルの中にある貸し会議室が会場になることもあります。
日本では現在6月に行われるFéile(フェーレ)というアイルランド音楽のイベントの期間中にのみ特別に受験をすることが可能です。
これはこのイベントの期間中に、SCT ExamのChief Examiner(審査員長)を務めるOisín Mac Diarmada氏が来日するからです。
彼の計らいのもとFéile期間中に限り日本でも受験が可能となっています。
日本の受験では通訳を付けることも可能です。(別途費用がかかります)
ちなみにFéile(フェーレ)は日本で開催されるアイルランドの音楽のイベントとしては唯一アイルランドの協会から開催を認められた、アイルランド公認のアイルランド(アイリッシュ/ケルト)音楽のフェスティバルです。
イベント期間中にはアイルランド音楽の国際コンクール「Fleadh Cheoil na hEireann」の日本予選も開かれ、所定の成績を収めた奏者は8月にアイルランドで開催される本戦へと出場することができます。
(左) CCÉの本部でSCTについて講演するOisín MacDiarmada氏(右から2番目)
(右) SCT Examの審査員長はOisín MacDiarmada氏が務めています。
2016年のフェーレで演奏するオシーン・マクディアマダ
英検であれ漢検であれ車の免許の検定もそうですが、検定試験には検定料がつきものです。
SCT Examも当然受験するには検定料がかかります。料金はグレードによって異なります。
アイルランドでの検定料は以下のようになっています。
日本での検定料はアイルランドの検定料に加え、会場費、アイルランドから招いた試験官への謝礼、アイルランド人試験官を補佐する日本人スタッフへの日当等を加算した上で料金を定めます。通訳を付けて受験することも可能ですが、その際は別途通訳の方にお支払いする料金が掛かります。
アイルランドでの検定料金
Grade 1 €30
Grade 2 €30
Grade 3 €35
Grade 4 €40
Grade 5 €45
Grade 6 €50
Grade 7 €60
Grade 8 €70
試験はどのグレードにおいても以下の4つの項目のついての審査があります。
①Perfomance
②Aural Awareness
③Research Project, Discussion & Repertoire
④Literacy
①のPerformanceでは実際に曲を演奏します。配点は60 marks(60点)でここが最も高い配分の配点となってます。
演奏する曲の種類、曲数はグレードによって異なります。
グレード1ではエアとポルカとダブルジグを1曲ずつ弾きます。(計3曲)
最上位のグレード8ではダンス曲4種類とスローエア合わせて11曲を弾きます。
どのグレードであっても基本的に1曲を2回繰り返して弾きます。
演奏する曲目は受験者が自由に決めることができます。
SCT Examのシラバス(試験の概要書)にどんな曲を弾いたらいいかグレード別に曲目リストが載っているので、それを参考に曲を決めることもできます。
(左) グレード8のPerformanceで課題曲として弾く曲の種類と数。
(右) SCT Examのシラバスに掲載されている参考曲目リスト。
②のAural Awarenessは日本の音大の入試などでも行われている「聴音」に相当するでしょうか。
この項目の配点は10点です。
といっても決して難しいことを要求されることはありません。
アイルランド音楽を学ぶ上で基本となる事柄のみが扱われます。
基本的にどのグレードであっても耳で聞いて、聞いた通りに弾き返せるかどうかという点が問われます。
アイルランド音楽はもともと楽譜を用いずに演奏家から演奏家へと聞き伝えに受け継がれてきた音楽ですので、「聞いた通りに弾ける」というのが何より大切です。
グレード1からグレード5の段階では実際に楽器で曲を弾くことはしません。
試験官が手で叩いた手拍子のリズムをよく聞いて、試験官が叩いたのと同じように叩き返します。
グレードが上がるに従いリズムが複雑になっていきます。
グレード6からは実際に楽器で曲を弾きます。
試験官がある曲のAパートのうちの2小節を3回繰り返して弾くので、それを弾かれた通りに弾き返します。
その他にAural
Awarenessでは曲の種類や、曲が何の調で弾かれたのかを言い当てる項目もあります。
③のResearch Project, Discussion & Repertoireは試験官との質疑応答が中心となります。
配点は20点です。
グレード6以上では作文の提出が必須となります。
作文はアイルランド国内外で活躍する著名なアイルランド伝統音楽の演奏家についての伝記スタイルで書いたエッセイを提出します。(英語またはアイルランド語で)
※エッセイはPDFかワードで作成し、https://www.docdroid.net/RJzLNBX/research-project-cover-sheet.docx.htmlよりダウンロードした表紙をつけます。
語数が決められていてグレード6では約750語以上、最上位のグレード8では1000語以上必要です。
エッセイでは、取材、アーカイブでの資料収集など受験者本人が一次的な調査を実施し、音楽的な分析を行ったことを明らかにする必要があります。
また使用した音源、映像、文献(オンライン文献も含む)の参照元も記載しないといけません。
当然他の資料からのコピペは厳禁です。
試験ではエッセイの内容が質疑応答のテーマとなります。
Repertoireは予め提出しておいたレパートリー表から試験官がアットランダムに曲を選ぶので、受験者は選ばれた曲を弾きます。普段自分のレパートリーとしてよく弾く曲を書き出しておけばよいので、特に難しいことはないと思います。
レパートリー表は試験当日に試験官に渡します。
グレード8のResearch Project, Discussion & Repertoireでは1000字の英作文を提出します
④のLiteracyでは音楽を弾く上での基本的な技術力を試されます。この項目の配点10点です。
グレードの低い方では簡単な音階や簡単なメロディを初見で弾きます。
グレード6以降ではアイルランド音楽でよく使われるドリア調やミクソリディア調の音階や、8小節にわたる曲を初見で弾きます。
Literacyでは音楽のごく基本的なことについての審査が主となります。
各グレードの試験内容の詳細についは公式シラバス(概要書)をご覧ください。(以下のリンク先よりダウンロードできます)
PerformanceからLiteracyまでの4つ項目についての審査を受け合計40%以上で合格です。
合格すると合格証が授与されます。
合格証と合わせて評価シートも贈られます。
評価シートには試験官のコメントが書いてあり、自分の演奏の良かった面、悪かった面、もっと伸ばせる点などを客観的に判断することが出来ます。
SCT Examの合格証(左)と評価シート(右)
晴れて合格すれと次のグレードに進むことができます。
グレード6までであれば次に受けるグレードは任意で選べます。(グレード1からグレード6に飛ぶことも可能です)
40%以上で合格ですが、得点によって以下のような評価に分かれます。
40~59% = Pass (可)
60~74% = Merit (良)
75~89% = Honours (優)
90~100% = Distinction (秀)
最上位のグレード8をDistinctionで合格した受験者には「Mícheál Ó hEidhin Medal」という賞が授与されます。
Mícheál Ó hEidhinはアイルランド音楽界の著名な講師の一人でSCT Examの発起人の一人でもあります。
またグレード6、7、8をHonours以上の成績で合格した受験者には「Advanced Performance Certificate」というアイリッシュ音楽(ケルト音楽)の演奏家としての資格(サーティフィケート)を得るための試験を受ける権利が与えられます。
グレード6、7、8をHonours以上の成績で合格すると
「Advanced Performance Certificate(上級演奏家証)」
を得るための試験を受けることができます。
「Advanced Performance Certificate」は2016年度の試験より新設された新しい資格ですが、その名の通り上級の演奏家であることを証明する証明書です。
現審査員長を務めるOisín Mac Diarmada氏自身も特に推している資格ですので、さらなる高みを目指す演奏家はぜひ目標にしてみてはいかがでしょうか。
SCT Examを受けるか受けないかは基本的に個人の自由です。
アイルランド音楽を演奏する上で絶対に必要なものでもありません。
SCT Examを一番のメリットは今現在の自分自身の位置を客観的に知ることができるということでしょうか。
アイルランド音楽は意外と難しいもので、なかなかアイルランドの人と同じように弾けないものです。
同じように弾けないということは、つまりどこかが間違っているということになります。
どこかが間違っているのは分かっても、それがどこなのかを知ること自体も難しいものなのです。
グレードテストを受けていくことで現在の自分のレベルをはっきりと知ることができます。
レベルを上げるためには何が必要なかということも分かってくるので、上達するための具体的な練習計画を立てるのにも役に立ちます。
ただ闇雲に弾いているだけではアイリッシュの演奏は決して上達しません。
必要なことを、必要なときに、必要なだけ、と効率の良い練習の仕方が大事です。
例えばアイリッシュフィドルを習いたい人が近くにフィドルを教えてくれる人が居ないからとクラシックバイオリンの教室に通うとしましょう。
これは、必要のない選択です。フィドルを弾くのにクラシックバイオリンの知識や技術は必要ではありません。
ドイツ語をしゃべれるようになりたい人が、近くにドイツ語を教えてくれる人が居ないからといって、フランス語の教室に通うようなものです。
そんなことしてもドイツ語をしゃべれるようにはなりませんよね?
アイリッシュはアイリッシュに必要なことがたくさんあります。アイリッシュに必要なことだけをやればいいのです。
もしあなたが全くの楽器に触れたことがなく、アイルランド音楽の知識もゼロだとすれば、当然グレード1から始めればいいわけです。
アイリッシュパブなどで楽し気に弾いている姿にあこがれて、早くそういう風に弾いてみたいと思う気持ちは分かりますが、いきなり早いスピードのダンス曲を弾くことなど出来るわけがありません。
まずは基礎の基礎をしっかりと覚えてグレード1で求められれることがクリアできたら次のグレードに進めばいいわけです。
グレード1が出来たらグレード2、グレード2が出来たらグレード3と、徐々にステップアップしていけばいつかは最上位のグレード8に到達できるはずです。
グレード8が終わればもうその上はないのですから、あなたも立派なアイルランド伝統音楽のマスターです。
もし1年に1グレードずつ受けていったら8年かかってしまいますが、逆に考えればじっくりと腰を据えて頑張ればアイルランド音楽は8年でマスターすることができるのです。
8年なんて案外短いものです。実際のところテキトーに自己流で弾いている人の中には10年以上も弾いていて1曲もまともに弾けない人も多いです。
10年もやって1曲も弾けないで終わるよりかは8年でマスターになった方がいいと思いませんか?
実際のところ飛び級が可能ですので、ほとんどの場合半分以下の年数で最上位のグレード8に受かる人が多いようです。
検定試験というと受検社会の日本では、「競争」や「選抜」というイメージが付きまといます。
「なんで趣味の音楽でまで”選抜”されたり”順位”を付けられなきゃいけないの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
しかし、SCT Examは段階的に目標を定めて、少しずつ達成していくことにより、アイルランド音楽を学ぶ喜びや達成感を高める事を目的としています。
決して難しい課題を課して落とすための試験ではありません。それは、合格採点評価の方法や高い合格率からも伺えます。
SCTは本当にアイルランド音楽が好きな人が、リアルなアイルランドの演奏が出来るようになるまで、きちんとステップアップできるための手順を教えてくれます。
検定というよりは、アイルランドの一流の演奏家のレッスンを受けるような感じです。
アイルランド音楽の演奏力のための「総合健康診断」とも言えるのではないでしょうか。
SCT Examの受験に興味のある方はこちらのお問い合わせフォームよりお問い合わせください。
試験に向けたレッスンも可能です。(当HPの作者は最上級のグレード8に合格しています)
私が受験した時の模様をこちらのページでご覧いただけます。
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